【1】FMについて : 波とFMの仕組み
さて,シリーズ(?)の最初は波とFMについてです.あまり数式を入れずに簡単に説明したつもりですが...
【波とは】
音は空気の振動で伝わることは周知の事実です.では音とは何でしょうか?
空気を振動させるのですから,空気の波であるということは推測できます.そして,非常に単純な音(単音)はある周期的な振動の波となっており,波の周期を変えることで,人間には色々な音程の音として聞こえます.高い音は波の周期は非常に短く,低い音は波の周期が長いという具合です.専門的にはこの周期を周波数という言葉で表現します.
周期は時間で表しますが,周波数は時間の逆数で表し,簡単な式で書くと
(周波数)=1/(時間)
となります.この周波数はヘルツ(Hz)という単位が用いられています.よくラジオなどはKHzやMHzという表示がありますが,Kは1000を,Mは1000000を表しています.
では複雑な音はどのような仕組みになっているのでしょうか?例えば和音などは色々な周波数(周期)の波が合成されております.
ある基本周波数の2倍,3倍,または3分の1のような波を考えます.図1はある基本周波数の波形であり,図2はその2倍,図3は3倍,そして図4は3分の1の波です.
ここで2つか3つの波を重ね合わせてみましょう.例えば図4と図1を重ね合わせると図5の波が,図4と図2で図6が,図4と図3で図7の波ができます.また,図1と図3の波を重ねあわせると図8のようになります.
図7 図8
このように波を重ね合わせることで,ちょっと見た目には複雑な波ができます.
さらに,図9のようなデジタル波形に近い波(方形波)も,図1と図3と図4の3つの波を重ね合わせることで作り出すことができます.
図9
よって,波を重ねあわせることで色々な波を作り出すことができます.逆の言い方をすれば,複雑な波や方形波は沢山の基本的な波の集まりであるということです.少し専門的になりますが,数学の世界にはフーリエ解析というものがあります.この手法を使うことでどのような基本的な波がどれだけ複雑な波の中にあるかということがわかります.これをコンピュータで高速に演算することができる手法が高速フーリエ変換,略称FFT(Fast Fourier Transform)です.
さて,波と言っても良く見るとどこか数学の教科書(高校の教科書ですが)で見た形です.この波は正弦波という形であり,三角関数の sin で表現することができます.
( sin を知らない人はごめんなさい!!)
基本周波数の何倍という周波数の波は sin θ の θ を変化させれば表現できます.つまり,どんなに複雑な波でも sin における θ が変わったのが沢山集まったものという見方ができます.この sin θ にある数を掛け算すれば,波の縦の幅が大きくなったり,小さくなったりします.この縦の幅を振幅といい,音の大きさになります.
まとめると,基本的な波は
A・sin θ
で表すことができ,複雑な波は
(A・sin θ) + (A・sin θ') + (A・sin θ'') + ・・・ + (A・sin θ'''・・・''')
で表すことができます.そして,波自体の振幅は A を変化させることでその大きさを決めることができます.
ちょっと余談ですが,非常に複雑な音をFFT処理をすることで,どの周波数の波がどれだけの大きさ(振幅)があるかということがすぐにわかります.音を数字で見たいと言う人はFFT処理ができる機械やソフトウェアがあると便利です.
【変調とは】
変調とは音声などの情報をある基本的な波に載せるための操作と言えるでしょう.ラジオなどでは振幅変調といわれるAM変幅調方式が主流ですが,シンセサイザなどの音源としてはPCMやFMが一般的です.
さて,では【変調】はどうやって実現できるのでしょうか?波は,
A・sin θ
で表現できることは【波とは】の項目で簡単に説明しました.
まず,一般的なAM変調から説明をしましょう.AMは振幅変調(Amplitude Modulation )の略で,図10のように基本的な波が振幅方向に変化してるのが特徴です.
図10
基本的な波は専門用語で搬送波と言って,非常に高い周波数であり,簡単に言えばラジオのチャンネル周波数と言えます.また搬送波が振幅方向に変化しているといっても,ある波の周波数に沿って変化しており,この波を被変調波といいます.
ちなみに,被変調波の一つである音は数Hzから10KHzくらいまでが人間に聞こえる範囲になりますので,搬送波はそれ以上の高い周波数でなければなりません.
さて,このAM変調は
A・sin θ
における sin θ の部分が搬送波の部分,そして A の部分が被変調波となります.
よって,単純な掛け算で図10のような波になるわけです.つまり,AM変調とは信号の振幅をそのまま伝える操作であると言えます.
【FM変調】
FMは周波数変調 (Frequency Modulation) の略で,図11のように一般的に波の疎の部分と密の部分で構成されており,また,良く見ると振幅は一定となっています.
つまり,FM変調とは信号の振幅を波の疎密,つまり,周波数の変化に変える操作と言えます.
図11
このFM変調は
A・sin θ
における A は一定であり,θ の部分が変化することで波の疎密ができます.よって,このθ部分に搬送波と被変調波の2つの波が乗っていることになります.実際にはFM変調は,
A・sin ( wc + sin( wf ) )
という式になり, ( wc + sin( wf ) ) の部分が θ となっています.例えばエクセルのような表計算ソフトの場合には,
というような数字が各セルに埋まります.各列およびセルについて説明すると,
A 列は時間列 t で,0から順に数字が並んでおり,B 列は搬送波 wc で,例えば B5 セルの場合,SIN( $B$3*2*PI()*A5/180 ) という数式が入り,C 列は被変調波 wf で,例えば C5 セルの場合,SIN( $C$3*2*PI()*A5/180 ) という数式が入っています.そして,D 列は変調波で,例えばD5 セルの場合,SIN ( $B$3*2*PI( )*A5/180+$D$3*SIN( $C$3*2*PI()*A5/180 ) ) という数式が入っています.このように各セルを設定していけば,図11のような変調波の図がすぐにできます.
音を作り出すシンセサイザは色々な方式がありますが,その1つにこのFM変調を基本とする方法があります.実際には基本的な波(基本周波数)から色々な周波数の波を作り出し,それらを合成することで複雑な倍音成分を含んだ波を作り出す,つまり,図1〜9のようないくつもの波を重ね合わせてるわけです.そして,先ほどの A・sin( wc + sin( wf ) ) の wf の部分を変化させることで,さらに複雑な波ができることになります.
このように上手く波を重ね合わせることができれば,楽器や自然な音に近い音ができるようになります.