銀河英雄伝説 Novels

ケスラー元帥伝第3章第2節


はじめに

本節はケスラー元帥が准将から少将へと昇進する過程につ
いて,物語風に記述したものである
本節によれば,ケスラー提督はアムリッツァ会戦中に少将
に昇進したことがわかる.
よって,ここではケスラー提督はその能力に見合った形で
少将に昇進をしたことが本節で理解できる.


第3章 第2節 ”少将”

「ケスラー,ご苦労であった」
ラインハルトは前に立つケスラーに労いの言葉をかけた.
同盟軍が退去して帝国内に進行してくる中,ケスラーは同盟軍が
占拠するであろうと考えられる星系の有人惑星から食料を集め,
同盟軍の補給路に負担をかける作戦を遂行してきたのであった.
ケスラー自身はクラインゲルト伯爵領に赴き,そこで懐かしい人
に会うものの,つらい任務を遂行しなければならない身であった.
しかし,こうして任務を遂行した後に,司令官であるラインハル
トから労いの声をかけてもらえことで,その達成感を味わってい
た.

現在,ケスラーは准将という地位であり,ラインハルトの直属と
して,1個軽機動部隊を指揮している.1個軽機動部隊には戦艦
50隻,巡航鑑150隻,駆逐艦200隻が編成されており,准
将の階級を持つものがその指揮運営にあたることになっている.
ケスラーはラインハルトの元帥府に招かれ,その直属としてこの
部隊を率いており,同盟軍が大挙して押し寄せてくるまで,イゼ
ルローン方面の辺境惑星を中心に警備活動を行っていた.
同盟軍が大挙して押し寄せてきた今,ケスラーには為すすべは無
かったが,元帥府からの指令でイゼルローン辺境聖域一帯の食料
の収拾に一転して追われる日々を送っていたのである.

ラインハルトは隣にいるオーベルシュタインを見て,うなずいた.
オーベルシュタインは抱えている書類から1枚の紙を取り出し,
ラインハルトに手渡した.
「さて,ケスラー,卿にはさらに重要な任務を与える.卿も承知
だと思うが,この作戦は同盟軍の補給路を干上がらせる所にある.
その為に卿には苦労をして貰ったが,収集した食料はしかる後に
平民にもどす必要がある.そして,我が軍が勝利を収めてすぐに
食料を平民にもどさなければならない.すなわち,卿が収集して
きた食料はこの地にとどめて置かねばならない.無論,それは非
常に危険であり,反乱軍どもがかぎつけるやいなや,その食料は
奪われることになりかねない.」
ケスラーは事の次第を悟った.
「そこで,卿にはその食料を旗下の部隊によって護衛する任務を
与える.」
ケスラーは背筋をピンと延ばし,ラインハルトから手渡される書
類を受け取った.
「無論,反乱軍が卿の所まで来るとは思えないがな.」
ラインハルトは笑いながら言い,ケスラーに敬礼を返した.
ケスラーは内心大変な役目だ.と思いつつも,表情には出さずラ
インハルトの前を退出した.

同盟軍はラインハルトの罠にかかり,各所で帝国の民衆と争乱を
起こしていた.そして,その各部隊の食料の残りは少なく,また
兵士達の士気も非常に下がっていた.
そんな中で,各所でラインハルト軍が同盟軍に襲いかかり,同盟
軍は敗退に次ぐ敗退を続けていた.
ケスラーはラインハルトの直属ではあったが,食料を守る任務の
ために戦場からは離れていた.

「ケスラー司令官,現在我が軍が優勢です」
オペレータの声は無機質であったが,ケスラーはそれにうなずい
て答えた.
「しかし,反乱軍もふがいないですな.幾ら食料がないからとい
っても,あれでは一方的ではないですか」
ケスラーの横にいる一人の参謀は感想をもらした.
「卿はそういうが,食料ほど重要な物資はないぞ.腹が減っては
戦ができぬと古来から言うではないか.それ故,総司令官閣下は
我々に重要な任務を与えて下さったのだ.卿も肝に銘じて於けよ」
ケスラーはそういいながらも,戦いに参加できない自分を残念に
は思っていた.だがそれを態度に出すことは自ら堅く戒めていた.
もし,ケスラー自身が戦いに参加できないことを残念に思う態度
を示したとき,部下達はその任務を忘れ,引いては重要な物資で
ある食料を奪われる可能性もあった.それ故に,ケスラーはまず
自らを戒めるようにしており,そして戦いが行われているスクリ
ーンをじっと見つめ,また周りを注意深く監視していた.無論,
ケスラーがそんなことをしても効果はないのであるが,ケスラー
は周りに与える影響を考えてこの様な態度をとっていた.

戦いはすでにあらかた終わっており,同盟軍は残りの部隊をアム
リッツァに集結させるべく,部隊の撤退を行っていた.

「反乱軍もふがいないな..今頃兵力分散の愚かさを今頃知った
か」
ラインハルトは吐き捨てるようにいったが,同盟軍はその実,真
剣に戦っていたのではある.しかし,広い帝国の辺境をカバーす
るには3000万とはいえ,やはり兵力は少なすぎた.しかし,
それは戦略の根本から違ってきているためにおこる問題であり,
現場の指揮官に帰することではなかった.そして,それは同盟軍
の多数の優秀な司令官を失ったことと関係ないわけではなかった.

同盟軍はその優秀な艦隊司令官と参謀を多数失っており,そして
各所で戦いに破れた部隊は統率も戦意も無く宙域をさまよってい
るありさまであった.
ある1000隻あまりの同盟軍の部隊は,ラインハルトの部隊と
戦い,散々に敗れた後戦線を離脱,指揮するものもおらず,宙域
をさまよっていた.だが,自分たちがアムリッツァに向かわなけ
ればならないことは理解はしていたが,四方八方が帝国軍の艦艇
で埋まっている中,どのように行けばいいのか右往左往している
状態であった.
この艦隊は分艦隊司令である少将とその幕僚が戦死または重症を
負い,幕僚の末席であるスカリー大佐がその指揮を取っていた.
スカリー大佐は未だかつてこの様な大部隊を率いた事がなく,ま
してや敵地の待っただ中に放り出された状態で平静を保つので必
死であった.

「全面に艦艇約500!帝国軍です!」
オペレータは緊張した声で報告をした.
「敵は戦艦50,巡航鑑150,駆逐艦200,その他100と
思われます」
「その他とはなんだ?空母か?」
スカリーは目をこすり,全面スクリーンを凝視した.
「いえ..違います.たぶん,補給艦と思われます」
「ふふん..補給艦か..こんなところにいやがったのか」
すでにスカリーの頭の中は,自軍が優勢であるという結論を導き
出している.
「よし,全面の敵を撃滅!あわよくば,補給艦を奪取!ここで今
までのお礼をしてやろうじゃないか!」
艦橋はそれまでの暗い感じから,一挙に戦意あふれるムードに変
わった.
「敵の陣形は..」
スカリーはそうつぶやくと,どの様に対処するかを考えた.自軍
は敵の倍あるとしても,高々1000隻.しかし,敵には補給艦
があり,積極的な攻勢にでると,補給艦まで撃沈してしまう可能
性がある.スカリーは若干迷った後,ある作戦を決定した.

ケスラーの艦隊は補給艦を自軍の後ろに従え,ある宙域にとどま
っていた.もしラインハルトからの指令があり次第,即座に対応
できる体制を整えていたのである.そんなところに同盟軍の艦艇
が出現した.ケスラーはもしもの場合に備えて,方々に偵察挺と
偵察衛星を配置しておいたので,同盟軍の出現に十分に対応する
ことができた.
「司令官,如何致しますか?」
参謀の一人はケスラーに問うた.
「さて,反乱軍はどうするかな..逃げるか戦うか..反乱軍の
数はどのくらいだ?」
「はっ.約1000隻です」
「そうか.我が軍の倍以上か..さてどうしたものか」
「我が軍は補給艦を伴っておりますので,安全な宙域にたどり着
けるどうか..」
「うむ.そうだな..敵の方が足が速い分,追いつかれてやられ
るな.よし,ここは積極的な行動に出た方がいいかもしれん」
「はっ..しかし..積極的な行動といいましても,補給艦があ
りますので,なかなか..」
ケスラーは冷静な表情を浮かべ,スクリーンを指さした.
「無論,卿の言い分はわかる.しかし,ここは敵に背を向ける
とやられるし,かといって守勢に立たされれば,数の上からも
不利である.だからこそ,積極的な行動にでる必要がある.
だが積極的な行動であるとは最初見破られてはまずい..」
ケスラーは顎に手をあて,少し考え込んだ.
「よし,これでいこう.」
指さしたスクリーンにはこれからの作戦が表示されようとしてい
た.
「いいか,ここで補給艦を後ろにして薄く広げた陣形をとる」
「は?薄く広げた陣形ですか?それでは突破されますが.」
「そこだ!いいか,敵が突破を考えるならば,紡錘陣形を組む
だろう.また包囲しようとすると我が軍と同様に薄く広げるし
かない.しかし,敵は飢えているのだから,補給鑑を奪取した
いと考えるのが妥当だろう.無論,紡錘陣形をとって突破をは
かり,そのままどこかにいってくれればいいがな」
ケスラーはそういいながらも,表情を堅くした.
「対して我が軍は敵が迫ってくるまで,補給艦を守るように広
げた陣形をとる.その後補給艦を中心に,紡錘陣形をとる.
もし,敵が紡錘陣形をとるのであれば,かわした上でやり過ご
す.また包囲しようとするならば,それを突破する.いいか,
ここで重要なのは敵を撃滅するのではなく,如何にやられない
かと言うことだ.」
参謀達はケスラーの言葉を飲み込み,そして皆うなずいた.
「閣下,突破した,またはかわしたとして,敵が反転し追いつ
く可能性がありますが」
「卿の言うとおりだ,しかし,今反乱軍は負け,この戦場は我
が軍で満ちあふれている.つまり反乱軍が反転し,攻勢する時
間的余裕はない.無論狂信的な司令官でなければだ.」
ケスラーは一呼吸おき,情報士官を呼んだ.
「総旗艦に援軍の要請をするんだ.我,反乱軍と遭遇,敵は我が
軍の倍,至急来援を請う」
「はっ!」
情報士官はケスラーの元を離れ,すぐに通信を始めた.
「いいか,再度言うが,ここで重要なのは戦うことではなく,
以下に補給艦を守るかだ.」
「閣下..となると紡錘陣形としては..如何様に?」
作戦参謀の一人が疑問を投げかけると,ケスラーはスクリーン
に顔を向けた.
「まず,紡錘陣形のうち,戦艦の半数を全面に,巡航鑑と駆逐艦
を配置し,その中に補給艦を配置,残りの戦艦は後ろに配置する.
これで前からの攻撃には最初の一撃くらいは耐えられる.また後
ろから追いかけられても,戦艦は装甲が厚い戦艦を配置すること
で,防御できる.」
「なるほど...」
参謀達は口々にいい,それぞれの職務に携わりに行った.
「あとは..味方がいつ来るかだな..」
ケスラーはその言葉を音声として外には出さす,自分の中にと
どめた.
「間に合えばいいが...」

「閣下,補給艦隊とその護衛艦隊が反乱軍に攻撃されている報告
がたった今はいりました」
オーベルシュタインはラインハルトにそう報告し,さらに続きを
言い始めた.
「反乱軍総数約1000隻,現在交戦中と考えられます」
「すぐに,クリューゲとパイパーを向かわせるんだ.高速戦艦な
ら間に合うだろう.ケスラーならそれまで持たせるだろう」
「はっ,すぐに向かわせます」
オーベルシュタインはすぐに通信士官の所に向かい,援軍を向か
わせるべく命令をし始めた.

スカリーは敵を包囲するために,自軍を展開させ,敵を包囲す
べく整えた.うまく包囲ができれば,補給艦が手に入り,兵士
の士気があがる,と考えている.
すでに同盟軍は広く展開し,帝国軍を包囲すべく努力していた.
「敵,1000万キロ.射程範囲まであと400万キロ」
すでに同盟軍の陣形はできており,あとは帝国軍を包囲殲滅す
るだけである.
「敵に..敵に動きあり!」
「どうした!」
スカリーは予想もしない敵の動きに目を見張った.

「未だ!全軍紡錘陣形をとれ!」
ケスラーは指揮座からそう指示し,そして旗下の艦艇がその計
画どおりに動いているのをスクリーンに表示している陣形をに
集中していた.紡錘陣形はみるみるうちに完成し,同盟軍がそ
の射程に入る前に完成した.
「よし!突撃!」
ケスラーはそう指示し,同盟軍の中でも特に薄い部分をねらっ
て旗下の艦隊をすすめた.その進みは遅かったが,しかし攻勢
に出ているという高揚感から,気にはならなかった.
「敵,700万キロ!」
「長距離戦闘用意!」

「敵,600万キロ!」
「ば...ばかな..なぜだ?なぜここで足の遅い補給艦がい
ると言うのに..攻勢に出てくるだ???」
スカリーは幕僚の末席に座しているとはいえ,作戦を考えるの
が主である.そして,決断という事柄に対してスカリーは十分
に自分を理解しているわけではなかった.はたして,スカリー
は迷った.ここで,帝国軍と同じように兵力をあつめるか,こ
のまま包囲をする作戦にこだわるか.スカリーは混乱のなか決
断を迷っていた.そしてその決断に迷う時間こそが,同盟軍の
致命傷となったのである.

「敵,600万キロ!」
「ファイエル!」
ケスラーはひときわ大きな声で叫んだ.そしてその声は旗下の
艦隊全部に届き,全ての艦はそのエネルギーを全面の同盟軍に
たたきつけた.最初の一撃で同盟軍の多くの艦艇が撃破,大破
し,そこに突破できる穴が空いた.帝国軍は歩みは遅いものの
確実に同盟軍を撃破し,穴の部分に楔を打ち込んでいった.

「全艦近距離戦用意!スパルタニアン発進せよ!」
スカリーは最初の一撃のショックから立ち直るのに多少の時間
がかかり,帝国軍に自軍の陣を突破されそうであった.ここで
突破されてしまうと反転して再包囲する余裕は無くなる.スカ
リーは未だ補給艦を拿捕しようと考えていた.つまり,同盟軍
の補給はそこまで底をついていたのである.

「閣下,敵は近距離戦に切り替えつつあります」
参謀の一人は集めたデータを分析し,ケスラーに報告をした.
「よし,こちらも近距離戦の用意をするんだ.ただし,深追い
は禁物である.まずは,包囲網の突破が最優先だ.」
ケスラーは悠然とスクリーンをながめ,戦闘を見つめていた.
「被害はどのくらいだ?」
ケスラーは情報士官にといかけ,情報士官はデータを分析し始
めた.
「戦艦および巡航艦の撃破5隻,大破10隻,補給艦は中破3
隻ですが,撃沈はありません.」
「引き続き情報を収集せよ,特に補給艦に関しては何かあった
らすぐに報告せよ」
ケスラーはそう命令し,突破しつつある戦闘状態の疑似状況を
見つめた.
「意外に手こずるな..」

「くそ!なぜ両翼は後ろから攻撃をしないのだ?」
疑似状況スクリーンから読みとれる状況は思わしくなかった.
スカラーは自軍が自分の指揮したとおりに動かないのに苛立っ
ていた.無論理由は分かっていた.寄せ集めの部隊であるが故
にその指揮系統が混乱をしているのが原因である.
すでに帝国軍は包囲網を突破に成功しつつあった.近接戦闘機
の被害も馬鹿にならず,さらにあらゆる被害の報告がひっきり
なしに耳にはいるのである.これでは落ち着いて指揮ができる
状況ではなかった.

「包囲網突破!」
情報士官は思わず叫んだ.ケスラーはスクリーンを見て再確認
をした.
「よし,先頭集団の戦艦は反転し,全軍が包囲網を突破するま
で援護せよ.」
ケスラーの出した指示はだめ押しであった.すでに包囲網を突
破した戦艦は反転し,同盟軍に対して攻撃を仕掛けた.同盟軍
は士気旺盛な帝国軍の攻撃に怯み,攻撃が緩くなった.
「今だ!全速で包囲網を突破せよ!援護の戦艦はさらに援護!」
猛烈な速度と攻撃が同盟軍に加えられ,帝国軍は同盟軍の包囲
網を完全に突破した.

「大佐!だめです.突破されました」
スカリーはその報告を呆然と聞いていた.まさか半数の敵に突
破されるとは思ってもいなかったのである.被害は少ないもの
の包囲網を突破されたということは彼の自尊心を崩すのに十分
であった.
「大佐..如何成されますか?」
幕僚の一人が尋ねた.
「全艦まとめて,敵を追いかけますか?」
スカリーはその言葉にはっとした.
「そ..そうだな.とにかくすぐに追撃しなければ..」
幕僚の一人がすぐに命令をだしに走り去った.
「艦隊をまとめて,再編成している時間はない.兎に角,まず
追撃できる艦から徐々に追撃せよ.敵は補給艦を伴っているた
めにその速度は遅い.全艦すぐに追いつくだろう」
楽観的な予測を行い,スカリーは再びスクリーンを見つめた.

「反乱軍追撃してきます」
「予想通りだな..よし,戦艦と半数の巡航艦は反転し,敵と
交戦せよ.補給艦とその護衛は全速で味方の宙域まで逃れるん
だ」
具体的な指示を出し終わったケスラーは自らの旗艦もまた反転
しているのを感じていた.
「まだなのか..」
すでに口の中がからからである.また緊張が続いており,ふと
頭がくらっとなる.しかしケスラーはスクリーンを凝視し,艦
橋にいる将兵に安心感を与え続けるよう努力した.
「敵600万キロ..」
「よし,全艦長距離戦用意,徐々に後退しつつ砲撃せよ」

「ファイヤー」
スカリーは前に立ちはだかる帝国軍に対して砲撃を命じた.こ
のとき同盟軍は200隻あまりの艦艇しかおらず,帝国軍とほ
ぼ同じ数の艦艇であった.
「ここは無理矢理攻めるのではなく,味方が徐々に集まるまで
待つしかないのか..くそ!」
スカリーは今十分な艦艇があれば,すぐにでも敵を包囲殲滅す
ることができると思っている.しかし,現実には5分の1程の
戦力しかなく,今は帝国軍を凌ぐことができなかった.

「敵の艦艇総数が徐々に増えてきます.反転した敵艦が合流を
しております」
ケスラーはその報告を聞きながらも,うなづくしか手段が無か
った.兎に角,補給艦を守ることが第一なのである.ここで反
乱軍を押させることができなければ,帝国軍の補給ばかりでな
く辺境星域に対し政治的にもまずくなることがケスラーには分
かっていた.だが,状況は刻一刻と悪くなる方である.

「大佐,すでに400隻ほどが集結しております」
「よし,接近し攻勢をかけるんだ.敵を一気に撃滅してやる」
スカリーはそう叫ぶと,突撃を命じた.

「敵突撃してきます」
情報士官の悲壮な声があがった.すでに帝国軍は徐々に後退し
ながら戦っているとはいえ,被害も馬鹿にならなかった.
だが,ケスラーはそれでも冷静さを失わず,腕組みをしながら
スクリーンを見つめていた.そして,その時々に応じた命令を
矢継ぎ早にだし,戦線を保っていた.

不意にスクリーンに何かが表示された.
「ケスラー,どうやら間に合ったな」
スクリーンの向こうにはパイパー少将の姿があった.ケスラー
はほっとした表情をし,首を振った.
「そうか..火消しやパイパーの登場か.何にせよ助かった.」
「うむ,すぐにクリューゲも到着する.ここは任せて,卿はす
ぐに補給艦隊の護衛に向かった方がいいと思うが..」
「すまん,そうさせて貰う.」
ケスラーはすぐに側の参謀に命令をだし,旗下の艦隊を戦線か
ら下がらる準備を始めた.
「よぉ,ケスラー..間に合ったな」
クリューゲ准将の屈託のない顔がスクリーンに現れた.
「あとは,パイパーと俺に任せてな.」
ケスラーは笑いながらうなずくと 頼む と言って通信を切っ
た.

「敵約3000隻!」
「さらに..敵1000隻!..突撃してきます!」
スカリーは後一歩のところで敵を撃滅するチャンスを失ったこ
とを悟った.4倍の敵と交戦しても敗退するのは必至である.
「くっ...」
短いうなり声をあげた後,すぐに全艦戦線離脱を命じた.

「反乱軍全速で離脱します」
パイパーは追うかどうか一瞬迷った.だが,すぐに追うのをや
めた.反乱軍はまだこの宙域にはうろうろしていると考えられ
る.だから,ここでケスラーと行動を共にし,補給艦を守る方
が重要と考えた.この考えをクリューゲに話した.
「賛成だな.まだ戦いは終わったわけではない.雑魚を相手に
するより,これからまた大きな戦いがあるはずだ.いたずらに
消耗するのは好かんな..」
クリューゲはそう言うと,笑った.

ケスラーは補給艦に追いつくと,すぐに紡錘陣形をとった.そ
してラインハルトの本体に追いつくべく艦隊を進めた.
「とにかく助かった,卿らには感謝する」
ケスラーはスクリーン越しにパイパーとクリューゲに言った.
パイパーは士官学校時代の先輩であり,クリューゲは同期であ
る.しかし,この2人とは士官学校時代から馬があい,貴様俺
の間柄である.階級もへったくれもない.この2人は後にケス
ラー元帥の元帥府の幕僚として活躍するが,それは後の話であ
る.
「まぁ,何にせよ補給艦が無事だったのは幸いだった.しかし
倍の敵に囲まれていながら,補給艦を失わなかったのはすごい
な」
クリューゲはそう感嘆し,パイパーは頷くことで同意した.
「いや.運が良かっただけだ.敵が包囲しようとして,薄く陣
形をひいてくれたおかげだ」
「いや,謙遜しなくて良いぞ,ケスラー.そうさせるべくした
のは卿の作戦であったのだろう?だからこそ,卿は補給艦を失
わずに済んだのだ」
ケスラーは僅かに照れたが,頷き,友人達との通信を切った.

「閣下,補給艦隊ですが,ケスラー准将の功績により無事であ
ります」
「うむ.補給艦隊の被害はどのくらいだ?」
ラインハルトはオーベルシュタインに向いて尋ねた.
「大破1隻,中破2隻だけです」
「なに?撃破されたのは無いのか?」
「ありません」
ラインハルトは ほぉ と声を出し,考え込んだ.
「どの様な状況だったのだ?」
オーベルシュタインは詳しく状況を説明し始めた.

ケスラーは総旗艦ブリュンヒルトにいた.無事に補給艦を護衛
し,本隊と合流を果たしたのである.その後すぐにラインハル
トからの召還命令が届いた.ケスラーは状況説明のためと思い
資料を整え,総旗艦に乗り込んだ.
艦橋にあがり,ラインハルトの指揮座の前に立ち,敬礼をした.
「ケスラー,ご苦労であった.また卿の見事な用兵のおかげで,
我が軍は補給艦を失わずにすんだ.承知のことと思うが,この
補給艦には辺境星域から収集した食料が積んである.これを失
わなかったのは政治的にも非常に大きな意味がある.」
「はっ.ありがとうございます」
「ケスラー准将,卿の功績は大である.よってここに卿を少将
に任ずる」
ケスラーは我が耳を疑った.
「少将?」
思わず声に出してしまったのに気がつき,すぐに下を向いた.
「ケスラー,卿には憲兵隊に出向していたときから注目してい
たのだ.また,今回の任務の意味についてよく理解し,そして
見事な用兵であったことは間違いない.ここまでの功績に対し
て卿に報いるのは当然である.」
ラインハルトはオーベルシュタインを向いた.オーベルシュタ
インは前に進み出て1枚の紙を読み上げた.
「ケスラー少将,卿には機動部隊3個,軽機動部隊3個,近接
戦闘部隊1個が与えられる.しめて3000隻弱の艦隊ではあ
るが,少将としては標準的な分艦隊の戦力を指揮することにな
る」
オーベルシュタインは編成表がかかれている紙をケスラーに渡
した.ケスラーはそれを受け取ったものの,まだ頭が若干混乱
している状態であった.
ラインハルトはケスラーを見つめた.
「ケスラー,まだ戦いは終わったわけではない.まだ,反乱軍
は帝国領内に残存しており,それを撃滅しなければならない.
そして反乱軍を撃滅した後,再び食料を平民達にもどさなけれ
ばならないのだ.」
ラインハルトはふとスクリーンをみた.ケスラーも振り向き,
多くの星々が映るスクリーンに見とれた.
「ケスラー少将,卿には今からその用兵の才幹を見せて貰うと
ともに,戦いに勝った後再び食料をもどすことをやってほしい.
これは卿にしかできぬ仕事だ.」
「はっ,微力をつくします」
ケスラーは敬礼をしながら,ラインハルトの前を退いた.
「また..フィーヤに会えるな..」
ケスラーはそう思いながら,少将になった気分とその責任の重
大さを深く噛みしめていた.

<第3章 第2節 終わり>


如何でしたでしょうか..
ケスラー提督は准将から一挙に中将へと特進したのか,それと
も少将に昇進してからアムリッツァ後に中将に昇進したのか疑
問点が多いところです.

ふとケスラーが辺境領域の食料の収集を行っていたOVAを思
いだし,その食料はどうなったんだろうという疑問点からこの
話を思いつきました.
ささっと書いたので,色々と文章的におかしい所や矛盾点など
色々と矛盾点はあると思いますが,まぁそこは勘弁して下さい(笑)

え?何で第3章かって?
そこは..ほれ..あれだよ
(全然説明になってないっちゅーねん...)

ところで... 感想などいただけましたら幸いです.→

次は..ミュラーとラインハルトでも出会うところ等考えてみ
ようかなとおもったりします.なんせ,ミュラーファンですか
ら(笑)


前に戻る
最初に戻る